大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成8年(ラ)1447号 決定 1997年7月30日

抗告人 X

被抗告人 Y

主文

1  原審判を取り消す。

2  被抗告人は、抗告人に対し、平成7年4月から婚姻期間中の婚姻費用の分担金として金40万円を支払え。

3  申立費用及び抗告費用は、これを5分し、その3を抗告人の負担し、その余を被抗告人の負担とする。

理由

第1抗告の趣旨

1  原審判を取り消す。

2  本件を千葉家庭裁判所佐原支部に差し戻す。

第2抗告の理由

別紙のとおり

第3当裁判所の判断

1  本件記録により認められる事実は、次のとおり付加、訂正するほかは、原審判の「第2当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原審判4枚目裏9行から同5枚目表5行までを削除し、「(8)相手方は、二男とともに農業経営をしているもので、平成7年度は、作付面積田1.1ヘクタール、同畑3ヘクタールを耕作し、農業収入として977万1335円を得ており、平成8年度も、作付面積田84アール、同畑3ヘクタールを耕作して相当額の農業収入を得ている(二男は事業専従者として年額240万円の給与の支給を受けている。)。」に改める。

(2)  原審判5枚目表5行目の次に行を改め、「(9)抗告人が控訴した離婚請求控訴事件(当裁判所平成8年(ネ)第××××号)は、平成8年11月14日に控訴棄却の判決が言い渡され、同年12月3日離婚の裁判が確定した。」を加える。

2  上記認定の事実に加え、当事者双方の提出した平成7年分の資料を基に被抗告人の負担すべき生活費を算出すると以下のとおりである。

(1)  抗告人の基礎収入

月額6万8041円である。

(2)  被抗告人の基礎収入

平成7年分の所得税の確定申告書及び平成7年分所得税青色申告決算書によると、被抗告人の平成7年の農業収入は、977万1335円である。収入から控除すべきものは、公租公課等、農業経営にかかる経費及び事業専従者の給与額であるところ、公租公課等は、所得税2万3000円、町県民税2200円、国民健康保険料39万6200円である。農業経営の必要経費は、平成7年分青色申告決算書によれば、減価償却費を含めて560万3209円となり(ただし、減価償却費については同決算書記載金額の6割を経費として認める)、これに二男に対して支払われている専従者給与240万円を加算すると、必要経費は、800万3209円となる。そうすると、被抗告人の基礎収入は、134万6726円となり、月額は11万2227円である。

(3)  被抗告人の婚姻費用分担額の算定

生活保護基準による最低生活費は、抗告人が6万6103円、被抗告人が6万2475円であり、生活保護基準方式で抗告人の生活費を算定すると、9万2677円となる。右金額から抗告人の基礎収入を控除して被抗告人の分担すべき婚姻費用を算出すると、2万4636円となる。

3  上記算定結果を基礎とし、当事者間の婚姻関係がすでに破綻していることも考慮して、被抗告人が抗告人に分担すべき婚姻費用分担金を検討すると、右金額は月額2万円とするのが相当である。したがって、被抗告人は、抗告人に対し、申立てのされた平成7年4月から婚姻が解消した平成8年12月3日まで(ただし、平成8年12月の3日分は含めないこととして20か月分。)の婚姻費用分担金の合計40万円を支払う義務がある。

よって、抗告人の申立ては、右の限度で理由があり、被抗告人に婚姻費用を分担させなかった原審判は失当であるから、これを取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 小林登美子 田中壯太)

(別紙)

抗告の実情

1 原審判においては、相手方には婚姻費用の分担能力がないとし、その理由として平成6年、平成7年の相手方の収入の激減を根拠としている。

2 しかし、婚姻費用の分担を決定する際に斟酌されるべき収入は、単に直近の年度の税務申告上の名目収入によってのみ決すべきでないことは明らかである。

3 特に、農業においては、天候等によりその年度ごとに収入が一定しないのであるから、少なくとも、過去5年程度の平均収入を基礎にすべきである。

4 加えて、相手方と長く同居していた抗告人の知る限り、相手方が耕作していた畑は、審判書記載の2.5ヘクタールではなく、5町歩ほどあり、うち4町歩が相手方所有の土地で、うち1町歩は、他人(○○氏など)から貸借していた土地であった。

従って、原審判における、相手方の耕作する畑は2.5ヘクタールとの点は、相手方が自己所有地のうち、一部のみを裁判所に申告した結果と解される。

5 また抗告人によれば、相手方は、農協に預金があるほか、郵便局にも多額の預金があり、子供や抗告人の名義の預金証書として、相手方が保管しているとのことである。

この抗告人名義の預金証書は、抗告人が相手方と暮らしていたときに偶然相手方が保管しているのをみたもので、その際「私の名義も使っているの」と相手方に尋ねたことがあるため、覚えているとのことである。

6 このように、相手方の農業収入の実態、及び資産の状況は、現地調査等によらなければ把握できないものであり、単に相手方の申告や表面上の所得証明により、婚姻費用の分担が不可能と結論つけるのは不当である。

7 抗告人としては、現地調査の点を、原審判の審理経過においても求めていたが、充分になされたとは言いがたく、再度相手方の収入について充分なる調査を求める。

8 よって、抗告の趣旨とおりの裁判を求めこの申立をする。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例